DCモーターで駆動する鉛電池搭載の電気スクーターを入手する機会を得ました(図1)。電気スクーターの仕様概要を表1に示します。電気スクーターのデッキの下部に収納されている鉛電池は、2個直列接続されており(図2)、合計の電池電圧と電池容量は24V、4.5Ahになります(図3(a))。DCモーターは、電気スクーターや電動自転車、小型電動機械システムなどでよく使われているブラシタイプの汎用モーターで、この電気スクーターには、DC24V/100Wタイプが使用されています。

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図1 電気スクーター

表1 電気スクーターの基本仕様
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(a)2個の鉛電池

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(b)DCモーター
図2 鉛電池とDCモーター

実験用に所有している円筒型リチウムイオン電池(26650型、3.2V、2.2Ah)を8個使用し、これを専用の電池ホルダーにセットした状態で8個直列接続になるようにショートバーでスポット溶接して電池スタックを製作しました(図3(b)、図4、図5)。これを2セット製作し、上記の鉛電池と交換して電気スクーターに取り付けました。鉛電池2個の重量は1.424kgであるのに対して、リチウムイオン電池スタック2セットの重量は0.694kgです。リチウムイオン電池は、鉛電池に比較して約1/3の重量であり、電気スクーターの総重量としては、約1kgの軽量化が計れます。

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(a)鉛電池の直列接続  (b)リチウムイオン電池の並列接続
図3 電池の接続

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図4 SUS製ショートバーを使いスポット溶接

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図5 製作したリチウムイオン電池スタック

リチウムイオン電池スタックを製作するに当たり、個々の内部抵抗を測定し、同程度の内部抵抗値をもつ電池を選別しました。選別した8個の電池の内部抵抗測定例を表2に示します。

表2 リチウムイオン電池の内部抵抗測定例
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リチウムイオン電池スタック2個並列と鉛電池2個直列接続したときの放電特性の比較を図6に示します。充放電評価装置で、放電電流は、いずれの場合も0.5C(2.25A)、放電終了電圧は、リチウムイオン電池スタック(測定前の端子電圧:26.69V)は18.0V、2個直列接続した鉛電池(端子電圧:25.94V)は21.0Vに設定しました。放電電圧低下の傾向は、リチウムイオン電池の場合は、ゆるやかな勾配で、フラットに近い経時変化を示しますが、鉛電池は放電開始時から漸次減少していく経時変化を示します。このことから、リチウムイオン電池はDCモーターの回転トルクを経時的に一定に保つように働きますが、鉛電池の場合は、時間経過とともに電池の電圧低下により回転トルクが低下していくことが予想されます。参考に、一般のDCモーターの基本特性を図7に示します。入力電圧が低下すれば回転数が低下し、トルクが低下していきます。

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図6 リチウムイオン電池スタックと鉛電池の放電特性比較

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図7 DCモーターの基本特性

電気スクーターから鉛電池を取り外した後に、リチウムイオン電池スタック2個を組み込み、電気配線して仕上げます(図8)。
実際に、走行実験を行いました。具体的には、電池を満充電した直後の走行速度を測定しました。体重の異なる2名の成人男性が乗り、45.5mの直線距離を走行したときの走行時間を計時しました。測定結果を表3に示します。走行実験の様子を図9に示します。
鉛電池の場合の平均速度は約9~10km/hです。これより、同電池容量のリチウムイオン電池を搭載した場合は、鉛電池の場合に比較して、若干、走行速度が早くなる傾向がみられました。

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図8 リチウムイオン電池スタックを搭載した電機スクーター

表3 スクーターの走行速度
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図9 電気スクーターの走行実験の様子

 
参考文献:DCモーターについて解説
臼田:「機械設計」日刊工業新聞社、6月号2014、41~47ページ