リチウムイオン電池は、正極と負極の電極シートと有機電解液で構成されています。正極は活物質としてLiCoO2を、負極は活物質としてGraphiteを使用しています。電解液は、EC(エチレンカーボネート)とDEC(ジエチルカーボネート)を体積比1:1または3:7で混合した混合有機溶液に、1モルのLiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)やLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニルイミド))、またはLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)の電解質を溶解した有機液体です。電解質としては、溶液性(解離性)やイオン伝導性に優れたリチウム塩が使用されています。電解液のイオン伝導率が極大を示す電解質塩の濃度として1 mol/Liter(1 mol/dm3)であることが知られています。

実用化された代表的な有機電解液として、1 mol LiTFSI in EC/DEC(1:1vol%)、1 mol LiPF6 in EC/DEC(1:1vol%)、1 mol LiPF6 in EC/DEC(3:7vol%)などがリチウムイオン電池に使用されています。ECは解離性が高くリチウムイオン(Li+)の生成量が多い高誘電率溶媒として、DECは低粘度溶媒として使用されています。特に、EC/DEC(3:7vol%)は、DECの混合割合を高めて、混合溶液全体の減粘性とイオン伝導性の向上を考慮したものです。電解液の誘電率を考慮すると、溶液の粘度が低い方が溶液中のイオンの移動に対する粘性抵抗が低くなります。

リチウムイオン電池における重要な課題の一つは、電解液漏れ(漏液)の抑制です。漏液の大部分は、電池の誤使用によるもので、例えば、電池の逆装填、ショート、過充電や過放電などによるものです。これらの誤使用によって漏液が起こらないような電池構造が求められています。

現在、漏液抑制を目的にした全固体電池として、硫化物系固体電池と酸化物系固体電池が開発されています。前者は現行の電解液よりも高いイオン電導度が得られますが、製造プロセスで室温かつ不活性ガス中における加圧成型技術が必要となり、後者は現行電解液と同程度のイオン電導度でありながら、大気中における高温での焼結技術が必要となります。いずれも多大な開発費用と長いスパンの開発が余儀なくされています。

筆者らは、これまでのリチウムイオン電池の研究過程で培ってきた製造ノウハウと電極材や機材をそのまま生かして電解液のみをゲル化する新しいコンセプトの固体電池の試作に挑戦しました。流動性を失った高分子ゲルによるゲル化媒質にイオンを含有されれば、電池セルとして構成した場合、セルからの液漏の心配がなくなり、安全性の向上に寄与する電池が実現できる。

 

figure_3(b) figure_3(c)

(a)電極体をポーチセルにセット                      (b)下部から見た電池セル

 

Figure_4(a) PXL_2021041Perkadoxゲル化テスト_20

(c)ヒータブロックでゲル化                 (d)電解液ゲル化

 

上記の背景を念頭に、電解液ゲル化電池の試作、評価を推進し、その研究成果の一部がイギリスの電池科学雑誌 ”Batteries International” Summer Issue 2021版に掲載されました。

 

BatteriesInternationalカバー_HP用

 

Batteries International_Summer 2021